EVは車の主流になる?電気自動車は本当にエコカーなのか?
世界で普及が進められている電動化。その中でも最近、急に存在感が増しているのはBEV(Battery Electric Vehicle)です。かつては「未来の乗り物」の代名詞的存在であったこともある電気自動車ですが、各自動車メーカーがラインナップするようになりつつあり、テスラのような純EVのみを扱うメーカーも出てきました。
ここまで急速にBEVが増えている理由は、主に各国政府が定める燃費の規制に対応するためのものです。こちらの記事にも規制について触れています。
欧州ではBEVのCO2排出量はゼロとカウントされるため、規制に対する効果は絶大です。よって各メーカーはBEVラインナップを急速に増やしています。
電気だけで走り排気ガスの出ない電気自動車は昔からエコな乗り物とされ、未来の車としてSFなどに頻繁に登場します。
しかし、本当に電気自動車が今の内燃機関の自動車ほど普及する未来は来るのでしょうか。ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどの内燃機関はBEVに駆逐されてしまうのでしょうか。
今後の電気自動車を取り巻く環境と、電気自動車を普及させる意義を考察していきます。
そもそもBEVはゼロエミッションなのか?電気自動車を普及させる理由は?
電気だけで走行し、走る時に排気ガスの出ないEVはエコカーというイメージがあります。つまりゼロエミッションで地球温暖化の原因となっていると言われるCO2も排出しませんし、NOxやTHC(Total Hydro Carbon)といった人体に悪影響を及ぼす有害物質も排出しません。だから電気自動車はエコと一般的に言われています。
BEVがゼロエミッションカーであるという認識は正しいですが、ある意味間違いです。確かに走っているEVからは排気ガスは出ません。しかし、走るための電気を発電するためにCO2を出している場合が殆どです。つまりBEVがどれくらいエコカーなのかどうかは、発電所の設備によるということです。
例えば、日本国内では火力発電所による発電が大部分を占めています
2017年度には81%がCO2を排出する火力発電です。さらに火力発電のうち約4割近くがCO2の排出量が特に多い石炭火力発電となっています。
日本の石炭火力発電への依存の高さは以前、NEWSでも話題になっていました。かつてはCO2を発生しない原子力発電が総発電量の3割を占めていましたが、東日本大震災の時の福島第一原発の事故により原子力発電は殆ど停止状態になっており、さらに火力発電への依存が高くなっています。
このようにCO2を大量に排出する発電に頼っている日本では電気自動車は本当のゼロエミッションカーではない現状があります。
次に世界の主要国の発電方式の構成比を示したグラフを載せます。
世界に目を向けても火力発電に大部分を頼る似たような現状の国が多いことがわかります。
豊富な水源で水力発電の割合が大きいカナダやブラジル、原子力発電の依存度が大きいフランス、自然エネルギーの割合が比較的大きいイギリスやドイツ。これらの国ではBEVによるCO2の排出低減効果は絶大かと思われます。しかし火力発電に依存した多くの国でBEVによるCO2排出量削減効果は上記の国に比べると小さくなるのが現状です。
電気自動車はどれくらいエコに走れる?日本でのCO2削減効果はどれくらい?
では実際にBEVが走行するときにどれくらいのCO2を排出しているのか、計算してみます。
そのためには、BEVが充電する電力を発電する時にどの程度のCO2を排出しているか知る必要があります。こちらのHPに各電力会社の電力販売量と販売電力あたりのCO2排出量の一覧が掲載されていました。こちらを参考にします。
電力販売量 (千kWh) | CO2排出量 (g-CO2/kWh) | |
東京電力エナジーパートナー | 18437578 | 462 |
中部電力 | 10131799 | 472 |
関西電力 | 9636092 | 418 |
東北電力 | 6184966 | 523 |
九州電力 | 6072200 | 463 |
中国電力 | 4527496 | 636 |
北海道電力 | 2995871 | 656 |
北陸電力 | 2262113 | 574 |
四国電力 | 1922256 | 535 |
平均 | 491.3 |
その他色んな電力会社が電力を販売していますが、主要電力会社の平均CO2排出量は491.3g-CO2/kWhとなります。他の細かい電力販売会社の値を考慮しても大きく外してはいないと思います。
ここで色々な種類のパワートレイン車で走行中に排出するCO2を計算し、比較します。
最近、国産車でもBEVとHEV(ストロングHEV)の両モデルをラインナップしている車があります。レクサスのUXです。
C-HRの姉妹車であるコンパクトSUVです。このサイズのBEVは元々中国向けに開発された車で、中国ではベースとなったC-HRやライバルであるホンダHR-V(ヴェゼル)にもBEV仕様がラインナップされています。
今回は比較対象にBEV代表としてUX300e。HEVはUX250h、参考にUX200もピックアップしてみます。燃費の値にはWLTCモードを使用しました。
充電効率は日本の一般家庭を想定し、この論文から85.1%とします。急速充電器を使用すれば、充電効率は約90%まで上がりますが、現実的にBEV購入世帯は一軒家で充電は帰宅し、夜に寝ている間に行うことが大半だと思いますので、こちらを採用します。
CO2はガソリン1Lあたり2322g排出するとします。根拠は国が定めたこちらの値です。それらの値を元に走行中に排出するCO2を算出すると以下のようになります。
電費 or 燃費 (WLTC) | 走行距離あたりのCO2排出量 CO2-g/km | |
UX300e | 140Wh/km | 80.8 |
UX250h | 22.8km/L | 101.8 |
参考:UX200 | 16.4km/L | 141.6 |
このようにCO2の排出量はBEVであるUX300eがUC250hより21g/kmほどCO2排出量が少ない結果になりました。国内で走行するならば、理論的には電気自動車はもっともエコな選択肢となります。
ただ一方で、BEVとHEVの差は意外と小さいと思った人も多いと思います。これはBEVの排出するCO2は、その国の発電事情によって左右されており、先ほども述べたように日本の発電の多くは火力発電に頼っているためです。
UXを例にとって横軸を発電量あたりのCO2排出量とし、縦軸をEVの走行距離あたりのCO2排出量としたグラフを書いてみます。青いラインがBEV、赤のラインがHEVの単位距離走行時のCO2排出量です。
このグラフより、UXの場合、BEVがHEVよりCO2排出量を下回るには約600 CO2-g/kWhの発電性能を持つ国である必要があります。
ここで各国のCO2排出係数を確認してみます。
2017年のデータですが、先進国では十分に発電係数が小さい値となっています。インド、中国は発電係数が600 CO2-g/kWhを大きく超えており、走行中にBEVの方がHEVよりも多くのCO2を排出する結果となっていることがわかります。
つまりBEVを普及させるだけではCO2排出量を抑えるという効果はなく、BEVの普及と同時に先進国も含めて発電所の性能も底上げする必要があります。
またBEVは大容量のバッテリーを搭載するために、製造時に発生するCO2は通常の車よりもかなり多いです。 これも、BEVによる環境負荷の低減を語る上では無視できない問題です。
先ほど計算したUXの計算結果を元に走行距離に対して日本国内でBEVがHEVに対してどれほどCO2削減効果があるのか示したものが次のグラフです。
この時の削減効果にはBEVでは発生しないオイル交換とクーラント交換のCO2排出量が上乗せされています。
メンテナンス時CO2排出量 | メンテナンス頻度 | |
オイル交換 | 3.22kg/回 | 1万km毎 |
クーラント交換 | 7.03kg/回 | 初回7万km 以後4万km毎 |
CO2排出量の値に関してはマツダが以前に出したこちらの論文の値を参考にしました。
BEVを作る時には一般的なガソリン車の倍以上のCO2を排出すると言われています。HEVとBEVのCO2排出量の差のオーダーとしては様々なサイトや文献を見ていると、2000~6000kg程度BEVが上回るようです。
大きく幅を持っているのはBEVやHEVが製造時に出すCO2はバッテリー容量に大きく依存すると共に大量に電気を使うため、その製造国の発電事情もかなり関係性が強いからです。
国内ではUC300eはUX250hに対して走行中21g/kmのCO2低減効果がありますが、この走行性能で製造時の差分を走行で取り戻すには、CO2の排出量にこれくらいの幅を見たとしても10~28万km程度は走る必要があることがわかります。
幅は持っていますが、少なくとも2~3万kmというすぐに取り返せるレベルではないほど多量のCO2を製造時に排出していることがわかります。
国内では10万km程度の走行距離で廃車にしてしまう例も少なくありません。そう考えると日本ではBEVによるCO2排出量低減効果は非常に小さいであろうことがわかります。
CO2削減量が少なくてもメリットあり?BEVを普及させる意義
CO2の排出量を下げる効果がありそうではあるものの、それほど大きくなく国によってバラつきがある電気自動車。これを普及させるメリットはどのようなものがあるのでしょうか。
まず期待される効果には都市部の環境改善があります。都市部に内燃機関車両が集中的に多く集まることにより、都市部の空気が非常に汚れた都市が世界中に多くあります。中国の大都市部や、ディーゼル車両の多い欧州の各都市。東京も決して良いとは言えません。
もちろん発電所からも有害物質は出ますが、エンジン付きの車の都市部への一極集中を減らし、郊外で発電を行い排出場所を分散することで都市部の空気を改善が期待できます。
もうひとつBEVに期待できるのが、蓄電池としての使い方があります。電気自動車には大容量の蓄電池が搭載されており、普及が進み台数が増えれば国内には至る所に莫大な蓄電池が存在することになります。
自然エネルギーは使いたいときに発電できるとは限らないのが最大のデメリットです。しかし蓄電池が増えると供給が不安定な自然エネルギー発電の電力を蓄電することができ、 自然エネルギーによる発電をより効率良く使うことができます。
こういう使い方をすることで水素社会の水素にも期待されていることです。
水素を使ってもCO2排出ゼロではない?水素が次世代エネルギーに選ばれた本当の理由
自然エネルギーによる発電量をもっと増やすことができるようになれば、CO2を減らす観点でもBEVの優位性はさらに高まってきます。
また、蓄電池の存在は災害時や発電所のトラブル時にも有効です。発電所からの電力供給が止まってしまっても、電気自動車に蓄電した電力で電化製品を使うことができます。
一般的な車であれば12V電源のみであり、最大使用電力も限られていますが、電気自動車ならば大電力を消費する電化製品を使うこともできます。
CO2削減効果が例え少なかったとしても、内燃機関の自動車がBEVに置き換わるメリットは十分にあると思います。
エンジンは完全にバッテリーとモーターに置き換わるのか?
「内燃機関は駆逐され、電気自動車に置きかわる」
こういうことが一般的によく言われていますが、実際はどうなるのでしょうか。個人的には完全に置き換わるのはまだまだ遠い未来の話だと思っています。電気自動車の普及には超えなければならない高い壁がいくつも存在するからです。
バッテリーはエネルギー密度が圧倒的に足りない
バッテリーのエネルギー密度はEV問題では大きな問題となります。バッテリーが重量辺りに使える蓄えられるエネルギーはガソリン等の石油燃料に比べ微々たるものです。リチウムイオン電池が120Wh/kg程度に対し、石油は約12000Wh/kgと言われておりリチウムイオン電池の約100倍のエネルギー密度となります。内燃機関で走行に持っている全エネルギーを使えるわけではないのですが、そのうち25%を使えているとしてもバッテリーの25倍という高密度なエネルギーを石油は持っています。
この理由はよく考えれば簡単な話です。内燃機関はエネルギーを生み出すのに通常、大気中にある酸素を大量に使用します。一方、バッテリーは密閉された空間の中ですべてを完結させます。その差を考えるとバッテリーが内燃機関の燃料に対してエネルギー密度が小さいのは自然なことです。
このエネルギー密度は航続距離に大きく効いてきます。航続距離を伸ばすためにはバッテリーを大量に搭載しなければなりません。しかしバッテリーを大量に搭載すにも車体の積載量にも限界があります。さらにバッテリーには貴金属が多く使われており、バッテリーの搭載量を増やすと値段も大きく跳ね上がります。電気自動車を広く普及させるには、このエネルギー密度問題をブレークスルーする必要があります。
またこの問題は車両重量にも大きく関わってきます。
車重[kg] | 航続可能距離[km] | |
UX300e | 1800 | 367 |
UX250h(FF) | 1550 | 980 |
UX200 | 1470 | 770 |
航続可能距離はUX300eが圧倒的に短いにも関わらず、車重はHEVモデルと比べても250kg変わってきます。航続距離を求めることによりBEVにすることで大幅な重量増化は避けられません。
次世代リチウムイオン電池と期待される全個体電池もエネルギー密度に関してはある程度改善ができますが、重量密度の問題に対しして革命的に有効というわけではないです。
この重量差はバッテリーのエネルギー密度の低さ故に大型車になるほど顕著になります。つまりBEVをどんどん大型にしていくと、どこかで車両として成立しないラインが出てきます。
どうしても短縮できない充電時間の問題
バッテリーは化学反応によって電気を充電したり取り出したりできます。それらの反応には当然ながら時間がかかります。使う時は少しずつ使うので問題ありませんが、エネルギーを充電する時にはそのスピードが大きくネックとなります。物理的に液体を流しこむだけでエネルギー補給ができる内燃機関に化学反応の充電がスピードで勝てることはありません。充電時間がかかるということは移動平均速度が大きく落ちます。移動モビリティとしても物流用途としても、目的地へ辿り着くための時間ロスが大きくなる可能性があり、これは大きな問題です。
充電技術が進歩し、専用設備を高電圧による急速充電が可能になりました。しかしそれでも満充電の80%まで30分かかります。(充電器の性能やバッテリー容量にもよりますが)
さらに急速に充電するにはより高い電圧をかけなければならず、熱の問題やケーブルの取り回しなどといった問題も発生するため、これ以上は難しいのが現状です
1回の充電に30分かかることはユーザーにとってもデメリットですが、商業的にもかなり問題です。最低30分ということは24hひっきりなしに充電に来ても1つの充電設備につき48台しか捌くことができません。儲けも少ない上に全国の車を充電器で捌こうと思うと膨大な数が必要です。
この問題を解決する方法はいくつか考えられます。
ひとつは走行しながらの無線給電。電力を供給しながら走れば充電時間の問題は解決できます。ただしこれには道路の大幅な改修が必要となります。
2つ目はバッテリーを交換式にすること。充電時間を待つ必要がなくなります。
バッテリーの規格化が必要ですが、中国ではタクシーを中心に実用化が始まっており専用ステーションに入れば車体下からバッテリーを交換する設備があるようです。200~400kg程度あるので、当然、人間の手では不可能ですね。
また、2輪では台湾のGogoroというベンチャー企業がバッテリーステーションを整備して、同様の方式で実施しています。
バッテリー交換スポットはスマートフォンのアプリで探すことができます。このサイズのバッテリーでは実用走行距離は20~30km程度だとは思いますが、日常の足として近距離の利用が多い小型スクーターならではの方法ですね。BEVの弱点をインフラ整備で補った良い例です。実際、台湾では電動バイクの普及率はかなり高くなったそうです。
しかし、やはり四輪用となると大規模な設備が必要で規格化する必要もあるため普及にはしばらくかかりそうです。
発電所の発電量問題
充電するためにはその電気をどこかで発電することが必要です。電気自動車が普及するほど発電所の負荷はあがることになります。しかし原子力発電を止めてしまい、旧式の火力発電所までも運転している今の日本にはそれほど余力はありません。2020年の冬の寒波でも電力需要がひっ迫しているとのニュースがありました。
電気自動車を普及させるということは、その電力不足に益々拍車をかけることになってしまいます。そして現実的にトラックなど輸送も含めた今の道路交通を全て発電所の電力に頼るのはほぼ不可能でしょう。少なくともBEV増やすときは発電所の建造も必須となるため、発電所建設と共に徐々に台数を増やしていく必要があります。
まとめ
エコカーとして普及しつつある電気自動車の現状についてまとめてみました。
BEVは決してゼロエミッションではなく、国によってはEVはエコな乗り物とは簡単には言い難い現状があります。
また同時に、電気自動車の普及には非常に高いハードルが待ち受けているために内燃機関はまだまだ主流には違いないと思います。やはり内燃機関を如何に効率よく走らせるかが、地球環境改善のためには、まだ大いに重要なように思います。
おまけ:BEVはむしろ環境に悪影響?BEVに乗り換えてCO2排出量増大も?
本文ではレクサスUXを例に挙げました。ただしUXは限定販売モデルであり、ある意味一般的なBEVとは言い難い車でもあります。
やはり国産車で最も普及したBEVと言えば日産リーフだと思います。
ただ、リーフにはガソリンモデルはありません。そこでほぼ同じ車体の大きさのストロングHEVであるトヨタ カローラツーリングと走行中のCO2排出量を比較してみました。計算方法はレクサスUXに同じです。
電費 or 燃費 (WLTC) | 走行距離あたりのCO2排出量 CO2-g/km | |
リーフ | 155Wh/km | 89.5 |
カローラツーリングHEV | 29km/L | 80.1 |
カローラツーリング | 14.6km/L | 159.0 |
なんと結果の通り、リーフがカローラツーリングより走行中のCO2排出量が多いという結果に。カローラは理論値で1000km以上走るので、航続距離も圧勝です。
もちろん強力なモータを積んでいるリーフの方がカローラより加速性能は上です。またレクサスUXに対して低価格なリーフはモーターやバッテリー制御の効率面でも劣っているのかもしれません。
ただ航続距離を除いた実用性や車両の大きさはリーフとカローラで同等であり、移動手段の車として比較する上でカローラとリーフの比較がフェアではないという理由もありません。
このように車種の選定次第ではBEVがHEVに走行中のCO2排出量で上回ってしまう例もあるという興味深い例です。
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