水素を使ってもCO2排出ゼロではない?水素が次世代エネルギーに選ばれた本当の理由

2020年10月14日

石油資源の消費由来の温室効果ガスの増加による地球温暖化が社会問題となっています。地球温暖化に関する評価は諸説ありますが、有限資源である石油エネルギーの無駄な消費は抑え、温室効果ガスの排出量を減らそうというのが世界的な環境保護の流れです。また、石油を使わないということはNOxや炭化水素といった有害物質を大気中にまき散らすのを抑制することもできます。

そして近年、石油に変わる次のエネルギーとして水素が注目されています

自動車業界内でもその流れはあり、国内自動車メーカーを見てもトヨタとホンダは水素をエネルギー源とする燃料電池車の開発に取り組んでいます。ホンダはEVやPHEVと車体を共用する燃料電池車のクラリティを販売してますし、トヨタもミライがラインナップにあります。ミライは次期型が東京モーターショーで公開されました。

現行型の初代ミライはFFですが、クラウン系のプラットフォームを流用し、次期型ミライは後輪駆動になります。

スズキもスクーターのバーグマンの燃料電池モデルの試作車がありますし、マツダも水素を燃料とするロータリーエンジンを開発していたこともありました。

石油に代わる代替燃料は他にもバイオエタノールなどもありますが、なぜ水素が際立って注目されているのでしょうか。

水しか出さない水素

水素が次世代エネルギーとして注目されている理由は大きく2つあります。

1つ目は水素の燃料としての性質です。

水素からエネルギーを取り出す方法は2つあります。ひとつは酸素と燃焼させて熱エネルギーを取り出す方法。石油燃料と同じく燃焼の反応熱を利用し、膨張する作動ガスをピストンとクランク機構を備えたレシプロ機関を通して運動エネルギーに変換します。マツダのロータリー水素エンジンはこの方法です。

もうひとつは燃料電池を使い、水素もしくは酸素をイオン化させて水に結合させることによって、電気エネルギーとして取り出す方法。簡単に言うと、水に電気を流すと水素と酸素が発生する小中学校の理科の実験とは逆の反応によって電気を取り出すようなものです。

どちらも反応によって生成されるのは基本的に水ですCO2などの温室効果ガスの排出を抑えることができます。

ただし前者のように燃焼させてしまうと高温下で大気中の窒素が酸素と結びつくため、石油燃料のときより少ないながらもNOxの生成は避けられません。また炭化水素系の燃料に比べて水素は発熱量が小さいため、馬力が出せないというデメリットもあります。

こういった車は、車の集中する都市部の空気環境改善に非常に有効です。このメリットに関してはバッテリーのみで走るピュアEVも同様ですね。これが水素が次世代エネルギーとして注目される1つ目の理由です。

水素は蓄電池である

もうひとつの理由は水素で電気を貯めるということ。こちらの方が水素社会の本当の目的だと考えています。

もちろん、水素に電力を直接充電できる訳ではありません。正確に言うと、電力を水素に変換して保存するのが目的です。

電力需要というのは、時間や時期によって変化します。その需要によって発電する電力も変化させていく必要があります。ソーラーや風力といった自然エネルギーを利用した発電は温室効果ガスを排出せず環境不可の低い発電ですが、発電量は自然任せのため、需要に合わせて調整することが出来ません。自然エネルギー発電をより効果的に使うためには発電した電力を貯めておき、需要に合わせて解放できる蓄電池が必要です。

そこで登場するのが水素です。水を電気分解すると水素を作り出すことができます。つまり自然エネルギー発電によって発電した電力を水素に変換することで、エネルギーを保存することができるようになるのが、水素社会の大きなメリットです。そうすることによって自然エネルギー発電を今以上に効果的に使うことができます。

水素社会を実現するための課題は?

以上の2点が次世代エネルギーとして水素が注目されている大きなメリットです。しかし、これを実現するためにはまだまだたくさんの課題があります。

1つ目の水素社会実現に向けた課題は水素製造のコストです。自然エネルギーによって発電した電気はまだまだコストがかかっているのが実情です。自然任せで発電量が低く安定しない上に、設備投資にもそれなりに費用がかかります。また、現在は各電力会社の余剰電力の一部の水素に変換していますが、十分な水素を製造することはできていません。

よって現在、水素の製造方法で主流となっているのか、水蒸気改質という天然ガスやナフサといった炭化水素を水蒸気改質によって水素とCOに分離させる方法そこで出たCOは水性シフト反応で水素とCO2にします。水蒸気改質は吸熱反応のため多量の熱を必要としますが、火力発電の電力で電気分解を行う水素製造コストに比べても安上がりで大量生産にも向いているため、世界中で主流となっています。

水素はクリーンなエネルギーと言いつつ製造時に、改質反応でCO2を排出し、吸熱反応用の熱を生み出すためのエネルギーを得るためにCO2を排出しており、地球温暖化防止の観点ではあまり褒められたものではありません。

2つ目の課題は水素の貯蔵方法です。水素は元素の中では最も小さく軽い元素で、分子構造の大きな物質なら簡単に通り抜けてしまいます。ペットボトルなどは論外ですね。

また金属であっても、結晶構造の中に溶解し透過したり、化合物を生成して脆化させてしまうことも多く大変貯蔵が難しい気体です。さらに気体であるためエネルギー密度を高めるためには、相当高圧で保存する必要があります。現在は、水素と相性良いステンレスタンクや機密性が高く金属でない高分子素材によるタンクによる高圧保存が主流です。

また、金属の結晶構造に入り込む性質を利用して金属に溶かして保存する方法もあります。こちらはエネルギー密度あたりの重量がネックとはなりますが、少ない体積に大量の水素を保存できます。

これらのデメリットを補完するために日産自動車など改質機とSOFC(固体酸化物型燃料電池)を搭載し、バイオエタノールから水素を取り成し発電する自動車の研究をしているというニュースが出たこともありました。これならば燃料としてはバイオエタノールを供給すればよく、水素のデメリットを無くすことはできます。しかし、この方法ではCO2の排出は避けられない上に、エタノールは燃料として普通のレシプロ機関にも使用可能なため、あまり水素をわざわざ使うメリットはないように感じます。

まとめ

自動車業界にも大きな影響を与える水素の燃料としての事情について書いてみました。実際に水素がエネルギーとして主流の社会となるのはまだまだ先にはなりますが、水素の需要は確実に、これからも増えて行くと思います。

今後の水素を取り巻く環境の変化に注目です。