直噴エンジンとは?そのメリット、デメリットは?
もはや自動車業界で当たり前となってきた直噴エンジン。よくワードは耳にするものの、あまり詳しく知らない人も多いはずです。「直噴エンジンって普通のエンジンとどう違うの?」「直噴エンジンって何がいいの?」そんな疑問を解消します。
直噴エンジンとは
直噴エンジンとはガソリンエンジンの1つで、直接噴射エンジンの略。Direct Injection Engine。DIエンジンと呼ばれたりします。何が直接なのかと言うと、燃料を直噴エンジンのシリンダー内に噴射します。
一方、そうでないエンジンは対してポート噴射エンジン。Port Injection Engineと呼ばれます。この場合、燃料はエンジンのシリンダー内ではなく、吸収ポート内に噴射されます。
量産ガソリン自動車でこのシステムを最も早く採用したのは三菱自動車。ギャランに採用されたGDI(Gasoline Direct Ignition)エンジンというエンジンです。
三菱 ギャラン(8代目)
— 好き勝手に車を語るアカウント (@talking_car) September 2, 2019
三菱を代表するスポーツセダン。語るに外せない280馬力のVR-4はワゴン版のレグナムにも設定。標準グレードは世界初のリーンバーン直噴ガソリンエンジンのGDIを搭載し車史に残る1台である。アスパイアは姉妹車 pic.twitter.com/nQkvPaMPQ8
このGDIエンジンは直噴式に加えて一部の領域でリーンバーンという燃焼を行っていました。
燃料が燃えきるには燃料が完全燃焼するために最低限必要な空気と燃料の重さの割合があります。空気14.7:燃料1です 。理論空燃比といいます。
リーンバーンとはそれよりもさらに薄い状態で燃焼させる技術。低燃費に貢献します。GDIエンジンではタンブル流(縦渦)と特殊な形状のピストンを使いプラグの近くに燃料を集めることによって、リーンバーンを可能にしています。
直噴エンジンのメリットは?
直噴エンジンのメリットは何と言っても「パワーと燃費の両立」が可能なこと。筒内に液体状態の燃料を噴射し、それが気化するシステムです。そのときの気化熱により燃焼室内の温度が下がります。
実はエンジンにとってエンジン筒内の温度が下がると大きなメリットがあります。
それは燃料の自着火を発端とするノッキングの抑制。本来はエンジンに投入された燃料は点火プラグによる着火からの火炎伝播により燃え広がってエネルギーを生み出します。しかし、その時にあまりにも高温になってしまうと火炎伝播で燃えるより先に燃料が自着火してしまうことがあります。また、この自着火は火花点火内前にも起こりうる現象です。その場合はプレイグニッションと言います。
これらの予期せぬ燃料の自着火は時に急激な圧力上昇と圧力派を生み出し、エンジンを破壊してしまうことがあります。これがノッキングです。
一方、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどのレシプロエンジンは、空気の圧縮率が高いほど効率が良い性質も持っています。これの幾何学的なスペックを圧縮比といいます。カタログなどのエンジン諸元に書いてありますね。
圧縮比は上げれるだけ上げたいのですが(本当は熱の逃げや摩擦とトレードオフでありメリットを得られる限界はありますが)、圧縮比を上げるほど圧縮される空気の温度は上がるので、ノッキングのリスクがあります。
これを緩和することのできるのが燃料冷却によってエンジンを冷やせる直噴エンジンです。
直噴エンジンを採用することによって、圧縮比を上げることが可能になり効率がよくてパワーのあるエンジンを作ることができるという理屈です。
また空気を事前に圧縮するため温度の上がりやすいターボチャージャーやスーパーチャージャーと言った過給器付きのエンジンとも相性がいいです。
圧縮比や過給器エンジンの話は、こちらにもう少し詳しく書いています。直噴エンジンやノッキングについても、実はここで軽く触れています。
直噴エンジンのデメリットは?
直噴エンジンにもデメリットはあります。
1つは排気ガス中の有害物質(PM)の多さ。直噴エンジンは、その特性上、事前に混合されているポート噴射エンジンに比べて綺麗に空気と燃料を混ぜることができません。そうすると、どうしても全体としては適切な割合の燃料を投入していても、局所的には燃料の濃い部分というのができてしまいます。
先程も直噴エンジンの歴史で少し述べたように、燃料が完全燃焼するための空気との適正な重さの割合は空気14.7:燃料1です。それ以上多いと、燃料は燃え残ってしまうことになります。これが小さい粒子となって排出されてしまいます。
ガソリン乗用車H30年規制値
規制物質 | 規制値(g/km) |
CO | 1.15 |
NMHC | 0.10 |
NOx | 0.05 |
PM※ | 0.005 |
※ストイキ直噴車については新型R2.12.1、継続生産車R4.11.1からPM規制適用 参考:国土交通省
煤はディーゼルエンジンのイメージが強いかもしれませんが、実は今の車の排気ガス規制では、直噴エンジン車だけにPM(particulate mass)の項目がR2年より追加されます。 それだけ直噴エンジンはPMの排出が多いと言うことです。
Particulateというのは粒子状物質のこと。PM2.5などで単語に聞き覚えはあると思います。特に粒径の小さなものは有害物質を付着したまま呼吸器系の奥まで入り込み、呼吸器系に健康害を及ぼすおそれがあります。
そして次に挙げるデメリットはコストです。
少しでも綺麗に燃料と空気混ぜるために噴射する燃料の粒を大きくする必要があります。また、より短い時間でポート噴射と同量の燃料を吹く必要があります。そのためにも従来よりも燃料を高圧にする必要があります。
その特別な装備のためのコストアップが必要です。また、高圧するのはエンジンの仕事なので、エネルギーのロスにもなりますね。
そのため安さが重視される車(主に軽自動車やコンパクトカー)や、燃費が重視されるハイブリッドカーなどには直噴エンジンは採用されないことが多いです。軽自動車は特に顕著で、今までの採用例はスズキの3代目ワゴンR、ダイハツの6代目ミラくらいでしょうか。
トヨタはこれらの直噴採用のデメリットを緩和するために、直噴とポート式を併用したD-4Sエンジンを採用していたりもします。コストはさらに上がってしまいますが、性能的にはそれぞれのメリットを享受できます。
まとめ
直噴エンジンの概要と、メリットおよびデメリットについてまとめてみました。車を選ぶときはなかなか燃料の噴射方式まで意識することは少ないと思いますが、今後の車選びの際は少し意識してみてください