燃料電池車はガソリン車に取って代わるのか?水素のポテンシャルは高いけど・・・
燃料電池車は水素から電気を作り出す燃料電池を搭載し、その電気を使ってモーターで走行するシステムを持つ車です。Fuel Cell Vehicle、略してFCVとも呼ばれます。
燃料電池車はガソリン等化石燃料の代わりに水素を入れることによって走ります。そして走行時には水しか排出しないため、内燃機関搭載車と違いCO2などの温室効果ガスやNOxなどの有害物質を出さずクリーンな車と言われています。
そんな燃料電池車は今後ガソリン車の代わりになるような乗り物なのでしょうか?普及までの問題点など含め燃料電池車のメリット、デメリットや今後について色々と勝手に考察してみました。
燃料電池の原理とは?
燃料電池は水素と酸素を反応させて電気を発生させます。その反応を促進し電気を取り出すためにために必要なのが燃料電池です。 簡単に言うと、水に電気を流すと水素と酸素が発生する水の電気分解の逆の反応によって電気を取り出すようなものです。 燃料電池車は、そのようにして生み出した電気を使って走行します。原理的に排出するのは水だけになり、それがエコと言われる所以です。
ただし今のところ燃料電池の材料に反応を促進されるレアメタルの存在は欠かせず、燃料電池が高額である大きな要因となっています。主に大量に必要とされているのが白金、つまりプラチナです。プラチナは触媒として非常に優秀で、埋蔵量の割に需要が高く高額な貴金属です。
2021年3月現在、国内で販売される燃料電池車はトヨタのミライだけです。
トヨタ ミライ
2020年に新型となったミライは先代と違って後輪駆動モデルになりました。デザインも洗練されプレミアム感が増しています。また水素タンクの追加により航続距離はWLTCモードで約750kmとガソリン車に引けを取らないスペックを有しています。
2t近い車重をものともしないモーターによる力強い走りの良さも魅力の一つです。
FCVのメリット
ここでFCVがどのようなメリットを持つ車なのか、挙げていきます。
走行中に有害物質を排出しない
これは燃料電池車を走らせる上での一番のメリットになります。何度も書いているように燃料電池車は走行中に排出するのは水だけです。よって大気汚染の原因となる有害物質を排出せず空気を汚染しません。これは燃料電池車を使うメリットであり、最大の理由となります。
水素の充填時間がBEVに比べて短い
上記のメリットを同様に有する電気だけで走り有害は排出ガスを出さない車の方式としてはバッテリーに溜めた電気で走るBEVがあります。BEVの弱点は充電時間です。充填時間は高圧で充電できる急速充電機でも8割貯めるのに30分かかります
それに対して短時間で水素を補充できる燃料電池車は使い勝手の面でBEVに対し大変有利です。日本では自宅で充電できる人も限られ、出先の充電スポットも増えているとは言え、PHEVやBEVの数が増えるに連れて需要は逼迫してきます。もちろん今後整備はされていきますが、充電時間が長いため充電器が時間あたりに捌ける台数も限られます。BEVで出かけた故に出先で移動時間に制約が出る可能性は十分あります。
以上、2点が燃料電池車のメリットとなります。まさに燃料電池車はガソリン自動車の便利さと電気自動車のクリーンさを併せ持った車ということです。
燃料電池車の普及までの問題点
そんな夢のような特性を持つ燃料電池車ですが、一方で多くの問題点を持っています。
実航続距離が意外と短い
カタログスペックと電気自動車の実性能は乖離する傾向にあります。
走行距離を計測するのはWLTCモードという決められた走行モードに従って走ります。もちろん平等に評価するためにエアコンうあカーオーディオ、ライト等はオフです。ただ実際の走行シーンではそうはいきません。また搭載重量や走行状態にもバラつきがあります。これらの外乱が実際の走行距離に大きく効いてきます。
もちろんそのような外乱の影響を受けるのは内燃機関も同じです。しかし内燃機関の自動車は一般的に負荷が上がると効率が上がる特性があります。よって負荷が挙がったとしても効率も上がるので、車全体のエネルギー効率はどれほど大きく落ち込みません。
一方、電気自動車は全領域を通して走行効率が高いです。そのためエアコンなどの高負荷な電気部品を駆動したりすると一気に航続距離が短くなります。
また速度が上がって空気抵抗が増えるとその影響が顕著に出て効率がガタ落ちするのも電気自動車の特徴です。航続距離が求められる高速走行で実航続距離が短くなりやすい傾向にあります。
これを改善するにはより大量の水素を搭載する必要があります。タンクは追加で搭載する容量がないので、これ以上に航続距離を伸ばすには補充する水素の圧力次第です。現状ミライに搭載されている70MPaです。さらにそれ以上高圧で補給するためには水素ステーションの設備がさらに高圧で水素を補給することができるようになる必要があります。
インフラ整備に時間がかかる
水素ステーションは全国に殆ど数はありません。まだ都市部の一部に限られます。また、現在のところ有人式であり営業時間が短いのも問題です。燃料電池車の数が増えれば、水素ステーションの数も増えて問題は解消されていくと思います。
ただ高圧の気体を扱うという特殊な性質上、ガソリンスタンドとは設備も全く異なるため急に数を増やすこともできず、普及にはまだまだ時間もかかります。
また水素ステーションを増やしても輸送インフラを整える必要があります。水素を輸送する方法は20MPaという高圧にして専用の輸送車で運ぶ方法が一般的です。また-273度まで冷やして液化して輸送することのできる輸送車もあります。いずれにせよ、供給インフラ整備に加えて輸送網の整備も必要になってきます。
全くエコではない水素の製造
水素は実は現状では天然ガスから作られているのがほとんどです。天然ガスに対し水蒸気改質を行い水素を生成します。大量に安価に水素を製造する代表的な方法ですが、その際に多量のCO2を発生します。
こちらの記事に詳細は記載しているので、本記事では省きます。
水素を使ってもCO2排出ゼロではない?水素が次世代エネルギーに選ばれた本当の理由
水素は自然エネルギーを使って発電した電気の貯蔵という側面も持っているため、 水素をクリーンエネルギーとするならば、 自然エネルギー由来の電力で水素を作るべきです。
しかし実際はそうはなっていません。やはり自然エネルギーはまだまだ高コストな発電方法であり、それらの電力を水素に変換するのもコストがかかるのが現状です。天然ガスから水素を作る方が大量で安価に製造することができます。
本当に水素をクリーンエネルギーと位置づけるなら、環境に配慮した製造の仕組みを整える必要があります。
まとめ
このように、まだまだ課題が山積みな燃料電池車。BEVのように既存インフラでそれなりに使えるというわけではなく、現状ではBEVよりもさらに普及のハードルが高そうです。
ポテンシャルとしてはガソリン車に近い使い勝手とスペックに加え、排出ガスを出さないという特徴を持っているのが燃料電池車です。ただ普及までのハードルを考えると、都市部で使える乗り物の選択肢として増えていくものの、田舎では今後もインフラの問題などから選択し辛いのは明白で、シェアがガソリン車に取って代わるようなものではないと思います。
液体燃料の方が気体燃料よりも使い勝手が良いのは当たり前です。もちろん電動化は今後加速していくと思いますが、車の主流は化石燃料のままだと思います。
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