安い車が業界を席捲するのか?小型EVが自動車社会を変える?
以前、SNS上で某有名実業家のこんな発言が、一部ユーザーの間で話題になっていました。
逆です。決定的な特許や技術が無くても、バッテリーとモーターとタイヤをくっつければ、電気自動車は作れちゃうので、安かろう悪かろうが市場を席捲しちゃいます。
— ひろゆき, Hiroyuki Nishimura (@hiroyuki_ni) September 24, 2020
今度、フランスでデビューする電気自動車ですがリースで月額2500円。買うと80万円。自動車免許要らないです。https://t.co/D4SGlzjvg9 https://t.co/OHpgQ62dJu
このtweetに至った話の流れとしては
世界的な自動車業界のBEV化の流れ→日本の自動車産業はついていけずに衰退する。何故なら車は今や誰でも簡単に作れるものであり、安いBEVが売れるようになるから
というのが大雑把な話の流れです。
当然、車というのはまっすぐに走らせるにも技術やノウハウが必要で、バッテリーとタイヤとモーターを組み合わせれば作れるというのはかなりの暴論です。如何にも素人らしい発言で、このような暴論に対しては日本には自動車産業に従事している人々も多くいるため、炎上するのは目に見えています。
しかし一方で、彼が取り上げたシトロエン Amiのような低価格マイクロBEVを各社が発表しており、そういった車が徐々に存在感を増しているのも事実です。
AMI 100% ËLECTRIC, its design is unique, the electric urban mobility is for all ⚡️ #CitroënAmi #ËlectricForAll #InspirëdByYouAll pic.twitter.com/Tyhvgc7xwd
— Citroën (@Citroen) March 4, 2020
実際、マイクロEVの存在も含めた自動車産業の在り方は今後どうなっていくのかを考えてみたいと思います。
「安かろう悪かろう」では車は売れない?
まず、断言しておくと「安かろう悪かろう」の車、つまり言い換えるならばとりあえず走れるだけの低価格の車は売れません。
車は生活道具であると同時にステータスだからです。
かつてインドのタタ自動車が発売したナノという車がありました。
インドで最も売れていたマルチスズキのマルチ800の牙城を崩すために開発された車で、マルチ800が20万ルピーだったのに対してその半額の10万ルピーという低価格で登場しました。
コストダウンのためにドアミラーやバックドアをオミット。徹底的に「走るだけ」に特化した車です。画期的な低価格で話題をさらいました。
しかし販売は苦戦。過剰なコストダウンの結果により故障や不具合が頻発したとこも原因ですが、名誉会長ラタン・タタ氏によると、「一番”お手頃”な車ではなく、一番”お買い得”な車でもなく、一番”チープ”な車という不名誉なイメージが付いてしまった。」ことが原因だと言っています。車は単なる道具ではなくステータスでもあるという特性がここに表れているわけです。
また低価格にするとライバルが不在というわけではないです。極限に低価格にした先の価格帯には中古車が存在します。つまり、あまりにも装備を絞りすぎると
最低限の装備の新車<装備のよい中古車
となってしまうわけです。
これが「とりあえず走れるだけの低価格の車」が売れない理由です。
実はマイクロEVは安かろう悪かろうの車ではない
実はシトロエンAmiなどのマイクロEVは某実業家の言うように単なる安い車ではありません。乗り物としての役割がまるっきり違います。
実は今回、話題となったシトロエンAimですが、欧州では「Quadricycle」と分類されており、自動車とは別のカテゴリーの乗り物です。
Quadricycleは一般的にはマイクロカーという呼び方がしっくりくると思いますが、小型エンジンや電気駆動のシティコミューターで、ヨーロッパ諸国、中国などでは無免許(14歳以上、国によっては16歳以上)で路上走行ができる乗り物です。欧州、中国などの一部の国や地域では、大筋では、高齢者、自動車を所有しない若者、市街地での小規模配送業務などに利用できる貴重なモビリティという位置付けになっています。
今回、ニュースになったために注目されただけで、前から乗り物としては存在しており目新しいものではありません。
話題になったAmiの場合、最高45km/hで最大航続可能距離70kmの都市部の走行に特化したコミューター。ライバルはスクーターや一部の自転車など、長距離を移動しない乗り物です。少なくとも現在主流である「自動車」の代用になる代物ではありません。
体が剥き出しでタイヤも二つしかない二輪車に対してQuadricycleの乗員はキャビンに囲まれており、雨風も防げます。タイヤが4つあるのでスリップして転倒するおそれはありません。一方、価格は80万円と一般的なスクーターや自転車より高額。つまりそれらと比べるとマイクロカーは安全で高級なモビリティと言えます。
今後、マイクロカーは主流のモビリティとなる?
今後、Quadricycleのようなマイクロカーが主流になるのでしょうか?私はマイクロカーは主流のモビリティにはならないと思います。
先ほども述べたように、走行性能や航続距離で大きく劣るマイクロカーは既存の自動車の代用にはなりえません。まったく違うモビリティです。
マイクロカーは二輪に比べて保管場所にスペースを必要とします。従って国内のような土地の狭い都市部では普及は進みません。
また、いくら自動車より道路占有面積が狭いとは言えバスや電車など公共交通機関に比べれば輸送能力は大きく劣ります。公共交通機関の発達した都市部でも普及は難しいでしょう。
よってマイクロカーの普及が進む可能性があるのは、ある程度土地があり公共交通機関が発達していない地方都市に限られます。またメインの車ではないので、セカンドカーとしてです。普及場所や条件が限定的である以上、世界的に主流のモビリティになることはないと思います。
ただ限定的でありながらも低価格で購入でき維持費もランニングコストも安いマイクロカーは特定の環境では非常に有効な選択肢です。
また環境保護の観点からも通常の車より負荷の小さいマイクロカーが普通の車に代わり普及することは特に渋滞に頭を悩ませている都市部では大いに歓迎されます。
今後、特定の地域だけでなくマイクロカーの使用を前提とした計画都市が増えていき、マイクロカーがモビリティの中で存在感を示してくる可能性は高いと思います。
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