EVを増やさざるをえない車業界

2020年1月18日


ここ数年、各社EVのラインナップの増加が加速しています。テスラというEVだけのラインナップのメーカーまで登場しました。

海外メーカーのみならず、国内各メーカーもEVの市販を明言しています。ただし2009年に登場した本格的な量産EVである三菱i-MIEVや翌年登場の日産リーフの登場してかなり遅れての参入です。

なぜ今になって次々と参入しているのか。これには理由があります。

その前にEVの説明を。車好きなら不要だとは思いますが。EVとはElectric Vehicleの略。要は電気で動く電気自動車ですね。

EVと言えば先進的なイメージが有りますが、実はEVの歴史は非常に古いです。バッテリーとモーター、制御装置があれば動くため機構が非常にシンプル。1980年代に3輪電気自動車が登場。これはガソリンエンジン車より少し古いくらいです。

では何故普及しなかったのか。それは、「パワー」「航続距離」「充電時間」の問題。これらが大きなデメリットとなっていました。

パワーに関してはモーターやバッテリーの進化により、今では殆どなくなっています。大電流が扱えるようになり、低回転でトルクピークの出るモーターの性能が活かせるようになってきました。日産もリーフが180SXにドラッグレースで勝つCMを出していましたね。

航続距離に関してはまだまだ心許ないレベルではありますが、バッテリーの容量あUPによりかなり伸びてきました。より密度の高い全固体電池の登場も、それを後押しすることになると思います。

しかし、どうしても解決できない致命的な欠点が充電時間です。急速充電とは言え80%の充電まで30分かかります。自宅で夜間電力を使って充電する分には問題ありません。問題になるのは遠出をしたときの出先での充電です。

1台の車が1つの充電スポットを30分独占するのです。数分でガソリンを補給できるガソリン車に対して時間あたりに捌ける車の量が大幅に減ります。今後、EVが普及すると充電スポット不足に陥るのは目に見えています。既に充電スポットの順番待ちが発生しているようです。

Charging stations in SF City Hall 02 2009 01 by Mariordo licence:CC BY-SA 2.0

EVだけでなくPHEVも充電するので、今後普及が予想されるPHEVの台数増加も重なり、充電スポットは益々込み合うことになります。

じゃあ技術の進歩で充電時間を早くしろよと言う意見が聞こえてきそうですが、これも非常に難しい。

高圧にして充電時間を短くすることは出来ますが、そこまでの昇圧装置の設置や使用を考えると安全性の問題で一筋縄ではいきません。また、バッテリーへの充電という行為は化学反応というのも曲者。化学反応は環境の工夫で多少早めることはできても自然現象である以上、限界があります。

また、必要な電力の問題もあります。EVが爆発的に普及すると発電所の発電量が足りなくなります。これも大きな問題。

このように致命的な問題が残っており普及が進まないために各社、EVではなく現実的なHEVやディーゼル車の開発を積極的に進めていた経緯があります。ところが近年、これらのEV特有の致命的問題は解決できないままですが、各メーカーはEVの拡大を進めています。

それは各国で始まっているCAFE規制に対応するため

企業別平均燃費基準方式

欧州や米国においては、企業別平均燃費基準方式(CAFE 方式)が採用されて いる。 具体的には、目標年度において各製造事業者等が出荷した車両の燃費値を出 荷台数で重みづけした企業別平均燃費値(CAFE 値)が、燃費基準値を当該製造 事業者等の目標年度における出荷台数実績で加重調和平均した値(CAFE 基準 値)を下回らないことを求めるものである。 CAFE 方式は、各製造事業者等がそれぞれの強みを活かして、例えば特定の車 種に先駆的技術を集中投入して大幅なエネルギー消費効率の改善を図り、それ以 外の車種に採用した技術によるエネルギー消費効率をカバーすることを許容する など、柔軟で効率的な対応を可能とするものである。 我が国においても、現行燃費基準から CAFE 方式を採用している。

国土交通省 乗用車の2030年度燃費基準に関する最終とりまとめ(令和元年6月)

つまり売った車の平均燃費が規制となり、燃費の悪い車を売った分だけ良い車も売らなければなりません。

規制が厳しくなるほど、売った車の平均燃費を押し上げる必要があります。もしクリア出来なかった場合は莫大なペナルティを支払うことになっています。

そして今後その基準は、電気自動車なしでは達成できない見込みが出てきているのです。

そのために電気自動車を販売させる必要があり開発、販売に力を入れているわけです。致命的な弱点は解決できないまま。

正直、今の技術では解決方法として考えられるのは価値観の転換しかないと思います。

電気自動車の価値観、車の価値観を変えていくのです。

例えば日産リーフは非常時の蓄電池としての使い方を提案し、テレビ広告でも全面アピールしています。


またEVを都市部等の短距離専用車のコミューターとして割り切れば航続距離は問題になりません。

こういったコンセプトカーはよくモーターショー等で見られますね。

トヨタも実験的にEV小型コミューターを出しています。ただ、普及はなかなかしていないのが実情。バイクよりもスペースを取る上に機動力にも劣り、かと言って車ほどの快適性もない。


そう言った意味では、現段階では三菱の方向性がベストだと思っています。三菱自動車のEVのラインナップはi-MIEVとミニキャブEVです。どちらも軽自動車ベースで航続距離は心許ないですが、街中の取り回しに優れています。

Mitsubishi i MiEV in Tokyo Motor Show 2007 by  Qurren licence:CC BY-SA 3.0


買い物、通勤、地元の配達といった短距離ユーザーは軽自動車ベースの小型EVで。長距離はエンジン車で。

近場での移動がEVになるだけで環境負荷的にも大幅に改善されます。エンジン車は触媒が温まるまで有害な排気ガスは垂れ流しです。またストップ&GOの繰り返しは苦手な領域ばかり使うため効率も悪いです。短距離の移動の繰り返しはEVの方が圧倒的に有利です。

でも使い分けるために2台持ちができる人なんて限られるし、人間心理としてどちらもできるなら、両刀使いを選んでしまうのが現実。

なかなかEVが本格的に普及する日は遠そうです。